岐阜から生まれる世界基準!
ひとりのコクテリエを追って。
<前編>

INTERVIEWバーテンダーインタビュー

岐阜から生まれる世界基準!
ひとりのコクテリエを追って。
<前編>

#Interview

Shigeyuki Nakagaki by「BAROSSA cocktailier」

地方の時代といわれて久しいが、バーテンダーの世界にも確実に地方の時代が訪れている。そのひとりが、地元の岐阜を拠点に活躍する中垣繁幸さんだ。自らを「コクテリエ」と称するトップバーテンダーの世界観に迫る!

文:Drink Planet編集部

All Photos by Yoshitatsu Ebisawa

岐阜県岐阜市。あまりカクテルやバーカルチャーとは縁がなさそうな地方都市で、常に世界基準のバーテンディングを意識して活躍する人物がいる。

「BAROSSA cocktailier(バロッサ・コクテリエ)」のオーナーバーテンダー、中垣繁幸さんだ。

中垣さんは、2011年のキリン・ディアジオ・ワールドクラス日本大会ファイナリスト。

惜しくも世界大会には進出できなかったものの、その丁寧な仕事ぶりとバーテンダーの常識を超えたテクニックやアイデアが人一倍光っていた。

しかも地方都市の岐阜! ということで、Drink Planet取材班は興味津々。

一体どんなバーなのか? 普段はどんなカクテルを出しているのか?

そこで「今はフレッシュフルーツが乏しい時期なんですよ」という中垣さんの意見を強引に押し切り、まだ雪が残る3月、Drink Planet取材班は岐阜駅に降り立った。

JR岐阜駅から徒歩5分ほど。オシャレなセレクトショップやちょっとしたカフェが点在するエリアに、「BAROSSA cocktailier」は構えている。

1階は「バル・バロッサ」。名前からもおわかりの通り、スペインのバル・スタイルの店で、同じく中垣さんがオーナーを務めている。

その2階に「BAROSSA cocktailier」があるのだが、こちらは階段の奥にドアが一枚あるだけの、いかにもオーセンティックな佇まい。

対照的なふたつの店が同居していることに疑問を感じていると、中垣さんはこんな風に説明してくれた。

「1階はスペイン・バルですから料理とともにお酒をワイワイ楽しむスペース。一方2階はカウンターに座って静かにお酒を楽しむスペース。人生のシーンには両方の要素があると思うんですよ。ですから、現在はこのような形を取っています。といっても、僕が直接担当するのは2階の『BAROSSA cocktailier』のほうになります」

真空調理により、グランママニエがしみ込んでいる最中のイチゴ。

ところで「BAROSSA cocktailier」の“コクテリエ”とは、どういう意味なのだろうか?

「『コクテリエ』は完全なる造語です。Patissier(パティシエ)の技術、Sommelier(ソムリエ)の知識、そしてフードマッチング力を総合的に活用してコクテル=カクテルをつくりだす職人、というようなイメージです」

「僕が自らを『コクテリエ』と名乗るというよりは、お客さまに対してのアプローチとしてのネーミングです。バーという名前ですと、敷居が高くて入りにくいと感じるお客さまもいらっしゃるようなので、珍しいケーキでも買いに行くような感覚で気軽にいらっしゃってほしいという願いをこめて、『コクテリエ』と名付けました」

実際、中垣さんのカクテルには、パティシエ目線の組み合わせや料理のテクニックが使用されることが多い。

そういったカクテルは、どういった背景のもとに生み出されるのだろうか? 

中垣さんのバイオグラフィーを簡単に追ってみた。

「リモンチェッロ・フレスカ」は、まず冷凍レモンをおろすことから。

中垣さんは岐阜で生まれ育ち、高校時代はファッションデザイナーを目指していたという。

学費を稼ぐためのアルバイトとして、せっかくファッションを学ぶならファッショナブルな人たちが集まる場所で働こう、と、当時流行っていたカフェバーで働きはじめた。

ここで飲食、特にお酒を扱うことの面白さに目覚めた。

その後、地元のレストランやBARで料理、製菓、バーテンディングの修行を積みながら、休みの日に足しげく東京を訪れてはバーテンディングとあらゆる飲食の真髄に触れた。

当時、家庭の事情で岐阜を離れることができなかったためだ。

そして28歳の時に岐阜の地で「BAROSSA」を開店。

開店当時は現在のようなスタイルではなく、もっとヨーロッパのカフェに近いような形態だったという。

経営者となって、金銭的にも若干の余裕ができると、東京へ訪れる回数は倍増し、ついには定休日に銀座の超名門バーのカウンターに立って研修をするという生活が2年以上続いた。

そののち、現「バル・バロッサ」のシェフと出会い、現在のスタイルにたどり着いた。

ジンに使用されるボタニカルを煮だしたシロップ。

正統的なバーテンディングを学びながら、料理や製菓にも造詣が深い中垣さんは、料理や製菓も含めた飲食文化のすべてをカクテルに昇華させることを目指している。

「バーテンダーとして特に変わったことをしようとしている訳ではありません。飲食の世界の技術やノウハウをバーテンディングに取り入れているだけなんです」

例えばカクテルの「スー・ヴィード・レオナルド」。

スー・ヴィード(真空調理)は料理の世界では比較的ポピュラーな技法であり、イチゴとグランマニエは製菓の世界では定番の組み合わせである。

「僕がこの世界に入った25年位前にはフローズンカクテルですら邪道といわれていた時代がありました。でも今は世界的に見ても正統派の技法ですよね。アヴァンギャルドといわれたものでも時間が経つとオーセンティックになれるものは沢山あると思うんです」

「尊敬する師匠や先輩方も、上の方から教わったことに加えて、御自身の新たな解釈や発想をプラスして僕に教えてくださっています。いま僕が新たに開発しているものも、今後、後輩たちに伝えていくための素材づくりなのかもしれません」

後編へつづく。

SHOP INFORMATION

BAROSSA cocktailier
500‐8847
岐阜県岐阜市金宝町1‐12 PORT-A 2F
TEL:058-266-1099
URL:http://www.worldcocktail.com

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